私の黒歴史 ~就職先は悪徳キャッチセールス(後編)職場の実態とは~

英語・語学
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いきおいで就職してしまった、英会話教材のキャッチセールスの仕事。

宗教じみた朝礼。今までの常識が全く異なるこの環境。

その会社がまぎれもない悪徳企業だと確信したのは、アンケートだった。

 

書店や駅構内などで

「抽選で3000円分の図書券が当たります」

と釣って住所電番などの個人情報を書かせるのだが、

実はこれ、絶対当たらないようになっている。

これだけでも、あの会社を詐欺罪として告発できるわけだが。

 

なので夜に電話セールスをすると、

「3000円の図書券は当たったのか?」

と訊かれるわけだが

「すいません、今回は残念ながら当選にはならなかったので・・・・」
判を押したように言って、

「ところでもっと英語が話せるようになりたいは思わない?」
などと言って相手に応じてフレンドリーに言ってアポイントにこじつけるわけだ。

 

その英会話教材の値段は、果たしていくらなのか?

その値段、なんと72万円。しかも怪しい36回ローンを組まされるので、

金利を含めると、84万円ぐらいになる。

その中で払われる報酬は、一件につき新人は89000円。

契約が何回か取れてポジションが上がると報酬は10万円や11万円に上がる。

つまり、求人広告に乗っていた金額は、「週一回に契約成立という前提」の、

完全出来高制だったのだ。

とはいえ、契約させられてしまった人の親御さんとかから、

「そんなの高すぎる!冗談じゃない!ダメ!」

とクーリングオフをされると、当然89000円の報酬は無効になる。

ちなみに、もし不覚にも悪徳セールスマンから強引に契約させられた場合、
絶対にクーリングオフをすべし。
これ以上社会悪を広めないためにも、是非覚えてください
http://www.kokusen.go.jp/mimamori/mj_volunteer/mj-chishiki24.html

普通、営業職といえば、正社員なら基本給が発生する。

正社員でもアルバイトでも、労働時間を拘束させる代わりに、社会保険や有給なども払って労働者の面倒を見なくてはならない

しかし、この悪徳会社では、基本給も社会保険も有給までも一切何もない個人事業主扱いにしている。

ただ、個人事業主である以上、最低賃金も社会保険もない代わりに、働き方は自由なのだ。

なのでわざわざスーツ着て10時に出社し12時間労働して挙句の果てに迷惑電話セールスする義務もないのである。

オフィスに出社せず、英会話教材が欲しい人に自由に売って報酬を得てもいいわけである。

空いた時間や休日などの副業として売ってもいいわけだ

 

でもね、たかが教材で80万円、しかも3年ローン付きもする英会話教材なんて、

常識的に考えたら、だれも買わないでしょう?

 

しかし、この悪徳会社では社員の面倒を一切見ないくせに、美談とやりがいをもとに洗脳させて、

長時間労働を押し付けさせて、出来高以外は一切払わない。

そのため末端の新人が搾取され、頂点の一握りが大儲けをする、典型的な労働搾取である。

 

そして職場の備品は、無料ではなく、なにもかも有料!

コピー機があるが、1枚に付き10円。

極めつけはウォーターサーバーで、いかにも怪しい訪問販売で売ってそうな、なんとかイオン水。

張り紙を見ると、「キムタクも飲んでる水が1杯30円!」

せ、せこい!なんてせこいんだこの会社は!
   

 

英会話の教材セットは80万円。しかもわけのわからん36ヶ月ローンを組まされるのだから、

大金持ちをターゲットにするか、よほど阿漕なことをやらない限り、当然契約は取れない。

 

担当だったチームリーダーの女性も、短大時代の友人ふたりに契約してもらったというから、

そのふたりの友人には心から「ご愁傷様」としかいいようがない。

これでは友達失くすね。そして仕事に深入りするほど洗脳されるね。

 

ところで、英会話教材を売っているセールスマン本人は、そもそも英語ができるのか?

答えは、

じつはほとんどの大方は英語が話せません。

「英会話教材を売っているくせに英語ができないとは何事か」

と思うかもしれないが、それはなぜか?

 

第一話で書いたとおり、求人欄には

「英語が出来なくてもOK!」

と書かれているので、英語が出来ない人が来るのは当然と言えば当然だし、

そもそも英語ができる人は、こんな悪徳会社のキャッチセールスでは働かない。

 

そんな中で親しくなったのは、A子だった。

何ヶ月か前から働いてるA子は30代前半ぐらいでメガネをかけていてアンジェラアキに似ており、

いかにも「出来る才女」という感じで、実際彼女は何年かニューヨークで留学していた事もあって

英語もペラペラだという。

だから「英会話教材ならぜったい私にまかせて!」といわんばかりの説得力と、

圧倒的な自信を持つことができるのだ。


この会社にやってくる新人は、まだ社会に出たての20代前半までの若者が多い中、

自分もオーストラリアなどの洋行帰りなのでA子とは意見が合い、

昼休みにファミレスで昼食しながら海外や英語の話をした。

NY帰りのA子のいつも持ってる愛読書は

「ユダヤ人富豪のお金の儲け方」みたいな自己啓発本だった

そんな野望を持つ、英会話教材の伝道師ともいえるA子ですら、

「この頃は全然契約が取れない」とぼやいていた。

 

思った以上に厳しいこの環境。

毎日12時間拘束。一件も取れぬ契約。

そんな日に日に溜まる疲れと、遠い見えない希望。

自分だけでなく、周りの仲間も、昼間から疲れきった表情をしている。

 

・・・・・・・・

 

そして何日か経ったある日。

疲労困憊でキャッチセールスを終え、朦朧としながら事務所に戻るため電車に乗ると、

チームリーダーから携帯に連絡が。

 

「オフィスに戻ったら、ただちに支店長のところに来て下さい」

ただならぬ雰囲気・・・・

 

この先、何が待ち受けているのか?

果たして吉と出るか、凶と出るか?

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そして、ハリウッドのように

ただならぬコールを受け、オフィスに戻り、応接室にいくと、支店長がいた。

全く何もない応接室。扉を閉めると、密室になる。

他の仲間は、別の部屋で電話セールスに没頭している。

 


 

支店長は、朝礼の時とは180度変わり、

怒りの表情と、私やほかの仲間と同様に疲れきった表情をしていた

 

「入社してから何日も経つのに、まだ契約どころかアポイントすら取れないのか?

いったい毎日、何をやってるんだ?

このままだとここで働くのは難しいぞ」

 

・・・・・・・やっぱりそうか。

どんなに毎日心身をすり減らしてセールスしても、アポすらとれないのだから、もうしょうがない。
これはクビだな、と思った。

それにしても、朝から夜遅くまで働かせておきながら、交通費など何も一切手当てがないのは、どういうことだよ?

ただやりがいをタネに、みんな搾取されてるだけじゃないのか?

そう思い、

「せめて定期代や交通費はくれないんですか?」と言った途端、

 

 

支店長は突然

 

「何を言ってるんだ!!おまえの考えはずれている!!!」

 

と激昂しだした。

 

なんだこいつ!?人をさんざんこきつかっておいて会社は一円も金も出さず、

しかも考えがずれてるだと?

どっちがずれてんだよ。

人を騙して高額商品を売りつける阿漕な仕事してるから、心がどんどん腐っていくのだろう。

こいつら、腐りに腐りきっている!

 

元・学生アメフト選手なので仁王のようないでたちの上に、鬼のような激怒。気弱な人は圧倒されて土下座するかもしれない。

だが「正論」を言うと、議論の余地を挟まず反射的に恫喝するとは、さすが悪徳企業。

なので不満のある私はすかさず反論した。

てゆうかもうどうせ今日で最後だから、この場で不満を大爆発させて大暴れしたろうかと思ったが、

 

激昂が終わると支店長は

「・・・・・・まあいい、この仕事には向き不向きもあるからな」

と静かに話し、

 

そして、最後には、

「次の職場では是非がんばってくれ」

と、まるでハリウッド映画のような固い握手をされて、

私は職場を後にした。

 

 

 

 

 

 


 

日々重なる疲労困憊と、

この最後の出来事で、

精魂ともに完全に朽ち果て、燃えカスになった状態で、

最後の帰りの電車に乗り込んだ。

 

電車の中で思ったのは、
希望を絶たれた思いと、若干のさびしさの後、

「明日から寝放題だ~」
「やっとこれで毎日12時間労働しなくて済むぞ~」

という、じわじわとやってくる「喜び」だった

そして、自分が気づかないうちに受けていた「洗脳」も解けていった。

 


 

それから2ヶ月ぐらいたったある日。

あのときの同期たちはみんなどうしてるのだろう?

 

ふと思い、そのうちの一人・英会話教材の伝道師ともいえるアンジェラアキ似のNY帰りの才女、A子に

「近頃どうしてるの?」と電話したところ

「あの時は契約がふるわなかったけど、その後契約がいくらか取れて、新しい事務所ではマネージャーとして一気に出世した」

とのこと。

しかしやはり極悪詐欺企業の宿命なのか、2ヶ月も経たぬうちに旧事務所は畳み、事務所の住所も社名も変えて運営しているという。

だからいつでも逃げられるよう、電話しかないような殺風景なオフィスだったのか!

今後もジプシーのようにさまよい、そしてhypocrite(偽善者)のように悪を続けているのか。

 

しかしA子と話してるうちに、おかしくなっていく。

「そんなことよりあきら(私の名)は何で〇〇(英会話教材)をつかわないの?

〇〇は英語力を伸ばすにはとてもすばらしいのよ!あきらはまた世界で活躍したいんでしょ!?

世界で活躍するなら、英語は必須なんだよ!欲しくなったらまたいつでも来てよ!

私はね、あきらの将来のためを思って言ってるのよ!!

 

はああ、すっかり完全に洗脳されとるなあ・・・・・

もう、一緒にキャッチセールスをしていた「仲間」ではなくなった。「獲物を狙う女」に変わってしまった。

もう、ミイラ取りはミイラになりたくない。

それ以来、A子に電話はかけることはなかった。

 


 

結局、キャッチセールスで2週間ぐらい働いても一円の収入にならなかったどころか、

一か月分の定期代を無駄にした。

だけど、こんな悪徳企業に魂を売って、がむしゃらに強引に契約を取り付けていたら、その分だけ契約者を不幸にしてきた筈。

もちろん相手が金持ちや資産家とかでありあまるぐらいのお金があれば別だが、使い捨てである末端の新人が金持ちと結びつける可能性は極めて低い。

 

それ以降、同期の女の子やキャッチセールスでつかまえた女の子と会話を楽しめればいいや、ぐらいのマイペースでやってきたが、結果的にはそれが正解だった。

せめてものおこぼれとして、同期の子やキャッチで親しくなった一般の女性をもっと口説いておけばよかったな、と今になって思う。

 

それでも思い出したくない文字通りの「黒歴史」だが、わずかな収穫として、多少の営業のやり方や、悪徳商法の内部とシステムを知る事が出来た。「社会悪とはこういうものなのだ」というのを体を持って思い知らされた。

これはある意味、キレイゴトだけでなく、汚いものを知るという事は、今後自分で正しく事業したり、たびいちドットコムを運営する上で、反面教師として役に立っているのかもしれない。

 

 

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